「大丈夫。納得はいかないけど、桃原がちゃんと考えて決めたのはわかるから」


そんな顔しないでよ。

二ノ宮が願う。


「桃原。笑って。俺、頑張るからさ。桃原がくれたチャンスを無駄にしないから」


大きく息を吸い込んで、笑顔を作る。

大切で、愛しいこの人が、頑張れるように。


「うん……応援してる」


一際大きな花火が空で爆ぜて、二ノ宮の優しい笑みを彩った。

彼は、ゆっくりと立ち上がると、私の上に影を落として。


「ありがとう、桃原」


額にそっと口づけ、熱を残し、背を向けて歩き出した。


好きだという気持ちを、互いに口にせず。

愛の言葉を飲み込んで。

無理に未来の約束もせず。

寂しさも、切なさも、想い合う素晴らしさも、全部胸の奥に仕舞い込んで。


秘密にしながら始まった私の恋は、終わりを告げた。


二ノ宮の後ろ姿が、少しずつ遠ざかっていく。

喉の奥が、瞳が、熱くてたまらない。

どうか、そのまま振り向かないで。

でないと堪え切れなくなるから。

唇を噛み締め、やがえその姿が見えなくなった瞬間──

私はベンチに座ったまま体を前に折り、うずくまった。