「……ずるいな。桃原にそんな風に頼まれたら、断れるわけないって」


弱った笑みを浮かべて首を傾ける二ノ宮の左手が、私へと伸ばされる。


「どこから行こうか」


優しい声色で尋ねられて。

私は、少し冷たい彼の手に自分の手を重ねる。

そうして、しっかりと握りしめられた途端、視界が潤んでしまい、慌てて俯いた。

ずっと、こんな風にしたかったから。

誰の目も気にせず、手を繋いで、二ノ宮の彼女なのだと自信を持って笑っていたかったから。


「貴重な時間だもん。めいっぱい使おうね」


手のひらから伝わる温度が温かくて、切ない。


「うん、文化祭ギリギリまで一緒にいよう」


どうにか涙を堪えて、私は顔を上げる。

特別で貴重な二ノ宮との時間を、笑顔で過ごすために。


二ノ宮が微笑んで。

私も微笑み返して。


2人、最後の時間が始まった。