──翌日、文化祭最終日。

昨夜はなかなか眠れなくて、結局睡魔が襲ってくれたのは深夜も大分過ぎた時間だった。

空が白み始める前には寝れたけど、洗面室の鏡に映る私の顔はお世辞にもいい顔色とは言えない。

今日は暗い顔なんてしたくない。

二ノ宮と付き合って、最初で最後の特別な1日になるんだから。

私はコンシーラーを手に取り、少しでも可愛くなるように薄く化粧を施していく。

髪の毛も綺麗に手入れして仕上げると、鏡の中の自分を見つめ、笑顔を作った。

どうか、この笑みが最後の時まで保たれますように。

誰ともなしに祈って、私は眠そうにした兄が座るダイニングへ向かうのだった。



見上げた空は青いけれど、吹く風は少し冷たい。

紅葉する中庭で、探していた人物を見つけた私は、往来する人波をぬって歩く。

中庭は大きな校旗が風に揺らめき、その下方には簡易的なステージが作られていて、ここでは様々なパフォーマンスが見れる。

今日の午前中は、アイドルのダンスを完コピしたものが盛り上がったらしく、クラスの出し物であるオバケ屋敷の受付に立っていた時、柑菜がその写真を見せてくれた。

確か、今日はこれから書道部のパフォーマンスがあったはずだ。

まだ人のいないステージを横目に、ようやくその背中に追いついて、私は声をかける。


「二ノ宮」


横顔だけで振り返った彼の腕は、ギブスで固定されていて痛々しい。

右腕のみジャケットを肩から羽織る二ノ宮は、私に声をかけられて少し戸惑っている。

部にバレてからずっと、校内での接触はなるべく避けていたし、電話での口論後、ぎこちなかったから当然なのだけど。