二ノ宮は「お疲れ」と、ただ一言労って。

安心したように息を吐くと、肩の力を抜いた。


きっと、意地になり過ぎてたんだと思う。

本当に好きなものを奪われそうで、怖くて。

恐怖が、三輪君の心から冷静さを失わせていった。

だとすれば、私は彼の気持ちが少しわかる。

だって、考えてしまうから。

掟がなければ。

反対する人がいなければ。

私は、二ノ宮と別れなくて済むのに、と。

だけど、独りよがりな行動に出ないのは、二ノ宮の存在が大きいからだ。

彼の想いが、夢が、私を恐怖から救ってくれる。

強がりだとしても、前に進むことができるのだ。

マイナスの恋ではない。

この恋がどんな結末を迎えたとしても、間違いなくプラスの恋だと思える。


ふと息を吐き出して、顔を上向かせた。

そのまま天井を見つめ、この先のことに思いを巡らせる。


二ノ宮のスカウトは、どうなるかはわからない。

でも、彼がバスケを辞めることはないだろう。

ならば、結局は掟の問題は避けられない。

三輪君のことが落ち着いたとしても、それはまた別の話だ。

掟があるのに付き合っていたことに、納得のいってない部員は少なからずいるのだから。

そしてそれがまた、二ノ宮にとって大きな障害になるかもしれない。

とすれば、やはり別れは必須。

必須、なのに。

こうして考えて、可能性を探してしまうあたり、未練があるのだと痛感する。