「大したことないから」

「でも、痛そうにしてるし」

「あー…うん、今はね。でも、時間が経てば痛みも引くだろうし」


何ともない。

あとで湿布でも貼ると無理に微笑まれて、私は仕方なく引き下がるしかなかった。

情けなく眉をハの字にしている私に、二ノ宮はもう一度「大丈夫」と口にして立ち上がる。


「それより、桃原は? 本当に平気?」

「うん……二ノ宮が来てくれたから。ありがとう」

「三輪がいないって気づいた時、嫌な予感がしたんだ。桃原もまだ来ないし。そしたら、部長が俺に様子を見に行くように言ってくれてさ」


手遅れにならなくて良かった。

安堵の息を吐き出してから、二ノ宮は「ごめんな」と謝る。


「また、桃原を巻き込んだ」

「巻き込まれても大丈夫だよ」

「何言ってんの。怖い思いしたんだろ」

「うん。でも大丈夫」


きっと、二ノ宮と別れることの方が、二ノ宮の隣で恋することを続けられない日々の方が、何十倍も辛く、苦しいだろうから。

だから、こんなの大したことない。

微笑すると、二ノ宮は切なそうな顔をしてから、口元に笑みを乗せる。


「そろそろ体育館に行こう。部長に一応報告しないと」


促されて、まだ少し痛がる彼を心配しながら、私は二ノ宮と共に体育館へと向かった。