先程まで流れていた吹奏楽部の演奏はもう聴こえない。

代わりに、二ノ宮が「桃原」と呼ぶ声が鼓膜を刺激した。


「行こう。2人がいなくて部長も心配してる」

「うん……」


立ち上がり、守るように腕の中に包まれれば、途方も無い安心感が生まれる。

本当なら話し合うべきなんだろうけど、今の三輪君は普通じゃない。

もっと冷静な時にするべきなのだろう。

そうして、重くるしい空間から逃れる為、部室から出ようとした時だった。

背後に気配を感じて。

二ノ宮が振り向こうとした刹那──


背中にガツンと。


軽い衝撃と共に鈍い音がして。


「っ!」


何事かと視線を泳がせれば。声にならない声を発した二ノ宮の腕が私から離れると……


「にの、みや?」


彼は、苦しそうな顔で右肘を押さえ


冷たい床の上にうずくまった。