目覚ましのアラームが鳴り響く中、薄く目を開いて思い出すのは、二ノ宮の笑顔。


『バッシュは、俺が見つけたことにしてある』


私は知らないことにしていると、一条部長からのLINEのメッセージにそう書いてあったのを、ぼんやりとした頭で回想していた。

だから、私は知らない振りをしている。

二ノ宮が今履いているバッシュが、以前愛用していたものに戻っていても、そこに触れないように、気づかない振りをして。

バッシュが悪意によってボロボロにされたのは、本当は悔しいだろうし、心だって傷ついたはずだ。

でも、彼は笑っていた。


『桃原、お疲れ』


笑って、労って。

何もなかったように、元気そうに振舞った。

頑張ってくれている。

前向きに、これを機にいい方向にしようと。

必死に頑張ってくれている。


寝起きだというのに、こぼれ落ちそうになる涙を唇を引き結び堪えて、私は体を起こした。