電車に揺られ、家に着くまでの間、ずっと頭の中にあったのは、何をされても文句を言わず、いつものように振る舞う二ノ宮の姿。

きっと二ノ宮から言わせれば、耐えて踏ん張っているのは私も同じ……なんだろうけど、選手とマネージャーじゃ関わり方が違う。

私はからかうように嫌味を言われる程度だけど、二ノ宮はわざとぶつかられたり、強いパスを投げられたりと、見てるだけで心が痛くなるものが多いのだ。


着替えるのもだるくて、制服のままリビングのソファーにもたれかかる。

2階から兄の気配がするけど、声をかける気力もなく、私はぼんやりとリビングの景色を眺めていた。

窓際に置いてある観葉植物のパキラは、先日母が購入してきた。

テレビ番組で風水特集をやっていたらしく、運気アップの為にと選んできたのだ。

とりあえず、私には効果がないのはここ数週間の出来事でよくわかった。

はぁ……と、深い溜め息を吐き出したところで、階段を降りる音がして。

ややあって、頭上からふと影が射す。


「おつかれモードか?」

「……ただいま」


覗き込むように見下ろす兄の質問には答えず、言いそびれていた挨拶を口にすると、兄はキッチンへと向かった。

そして、冷蔵庫を開けて長方形の箱を取り出すと、それを持って私の隣にポスンと腰を下ろす。