「今日はまだキスしてない」

「えっ」


驚くや否や、彼の唇が私の唇に優しく重なる。

ほんの数秒、触れるだけのキス。

だけどそれは、私に深く甘い幸せを感じさせてくれた。

唇にあった二ノ宮の温もりが離れて、またあとで連絡すると約束し、私は手を振って彼の家を後にする。

直後、人影がス……と細い路地に入って行くのが見えた。

もしかして、キスしているところをご近所さんに見られてしまったかなと、少し恥ずかしくなって。

私は足早に駅へと足を向けた。


二ノ宮と過ごした帰り道はいつも切なくなる。

家に着く前からまた会いたくて仕方なくて。

けれど、この幸せな時間がまた次の日曜日にやってくるのだと思えば我慢もできる。

そんな幸せと切なさを胸に、私は家路を辿った。