「二ノ宮は優しすぎだよ」


つい本音を口にすると、彼は小さく笑う。


「俺は桃原の事が好きで、ワガママ言ってるだけ」


柔らかい眼差しに、私も自然と頬が緩んで。


「じゃあ……さっそく、困らせてもいい?」

「どうぞ」

「キス、したい」


ここは学校だけど、今は鍵の閉められた倉庫に2人きり。

たまには、校内で二ノ宮に甘えたい、と。

ずっと、ずっと思ってた。

だから、少し恥ずかしいけど勇気を出して伝えれば、二ノ宮がはにかんで。


「それ、全然困らないし、俺得じゃん」


囁くと、視界が二ノ宮でいっぱいになる。

次いで、唇に、何度も交わして覚えた彼の温度が重なった。

幸福感に浸りながら浅い口づけを交わし、それがやがて深いものに変わって。

2人の世界に入りすぎたのが──いけなかった。


気づけなかったのだ。


鍵が開けられようとしている、その音に。


私たちが反応できたのは、低く太い倉庫の扉が開く音を聞いた時で。


慌てて唇を離しても、遅かった。