何かを変えるのは簡単なことじゃない。

掟も然り、人の心も然り。

けれど、私たちも簡単に折れるわけにはいかないのだ。


腰に回っていた二ノ宮の右手が、私の頬に移動し愛おしそうに優しく触れると、彼は形のいい唇を開く。


「……あのさ、ひとつ、お願いがあるんだけど」

「なに?」

「俺を気遣ってくれる優しい桃原も好きだけど、ワガママとか言ってくれていいよ」


穏やかな声で請われたそれに、私は少し目を瞠った。


「合宿の時に䋝田先輩も言ってたけど、その通りだよな。我慢が過ぎて辛くなるのはよくないっていうか……桃原には、笑っていて欲しいんだ。だから、ワガママ言って、俺を困らせて」


喧嘩とか、いっぱいしよう。


そう言われて、気づいた。

確かに私たちは喧嘩や言い争いをしたことがない。

それは、学校では接触が少ない分、2人の時間を大切にしたいからだった。

故に、ヤキモチだとか、本当ならこうできるのにな、なんて堪えていることはたくさんある。

でも、それをぶつけて二ノ宮を困らせたくないから、できるだけ見ない振りをしたり、気にしないようにと心がけてていた。

まして今は二ノ宮は悩んでる。

スカウトのこともあるし、重荷になりたくない。

もしかして、二ノ宮は気づいて気にしていてくれた?

……ううん、そうではないのかも。

三輪君のストレスを見て、自分のストレスを感じてるからこそ、私に忠告してくれてるのかもしれない。

我慢せずに、吐き出していいよ、と。