大手を振って付き合えてれば、体験することのない苦労を、私たちは今日だけではなくいつも、何度もしてきた。

でも……そうだとしても。

あの日、二ノ宮とキスをして、告白を受けて、付き合うと決めて。

その中で色々と迷いはしても、後悔なんて一度だってしたことはない。


「1ミリもしてないよ」


二ノ宮の胸に顔を埋めて言葉にすると、彼は私を抱き締めたまま器用に上に覆い被さる。


「俺も、してない」


冷房の効いた部屋で、温かい微笑みを向けられて。

胸を高鳴らせながら微笑みを返せば、優しい口付けがひとつ、落とされた。

それはすぐに離れてしまい、無意識に縋るように彼を見れば、艶めいた瞳が私を捉えていて。

恥ずかしくなり、慌てて視線を外すと、再び唇が重ねられる。

今度は、蕩けるような甘い甘い、キス。

溺れてしまいそうなくらいの長い口づけの合間に、二ノ宮の柔らかな声が私を呼ぶ。


「もも、はら」


熱を潜ませたその声色に、クラクラして、ドキドキして、わけが、わからなくなっていたら。

「……美羽」

名前を呼ばれて、一瞬、息がつまる。

その直後、彼は唇を離すとそのまま私の首筋に顔を埋めた。

これ以上ないほどにバクバクと騒ぐ心臓。

怖い、とか。

逃げ出したい、とか。

何度もそんな思いが掠めたけれど、逃げれば追いかけて来るその手が、唇が、優しさが……

私を思考ごと溶かしていって。

最後に聞こえたのは、どこまでも優しい彼の声。

そして、途絶え行く意識の中で私はぼんやりと願っていた。

いつまでも、彼の腕の中でこの幸せな体温を感じていたい、と。