好きな人が現れても……

目の前に来た人のことを視界に入れたくない。
何を言われるのだろうと思うと怖くて、直ぐには目線を上げれなかった。


「紺野から伝言を預かった。『言い過ぎてごめん』って」


その言葉に驚いて目を向けると、課長は真面目そうな顔をしてる。
私は何も言えずに黙り込んで、課長からも目を背けられずにいた。


「昼間の話なんだけど…」


ギクッと胸の奥が焦る。
課長の言い出す言葉が怖くて耳を塞ぎそうになった。

きゅっと軽く指先を握り、そうしたくなるのを堪えた。
課長は私に目を向けたまま、「ごめん」と一言謝った。


「日曜日は彼氏の家に行く予定でもあったんだろう。それなのに急な予定変更させて悪かった。
こっちは大丈夫だからいいよ。誰か別の人に教えて貰うから」


そう言うと立ち去ろうとする。
私は思わず椅子をデスクにぶつけながら立ち上がり、「違います！」と叫ぶように言ってた。


課長だけでなく部署内に残ってた人までがこっちに注目する。
ヤバいと思い、声を潜めて俯いた。


「あれは紺野君の勘違いなんです。彼氏とかいませんから、日曜日にはお手伝いさせて下さい……」