好きな人が現れても……

「こいつ、好きな男の言いなりなんですよ。今度、そいつの家に行って……」

「紺野君！止めて！」


課長に気持ちがバレてしまうじゃない。
私は彼に何も告げてなんかないのに。


「好きな男…？」


課長の言葉に振り返る。
ハッとするような目で見られてて、思わず焦りが出た。


「い…いいんです！紺野君の言うことなんて間に受けないで下さい！」


聞かないで欲しい。
こんな形で知られたくない。


「紺野君もほっといて！何もかも私が好きでするんだからいいの！」


声を張り上げたせいで、周りの目は一斉に集まった。
私は目を伏せて向きを変え、課長の方をチラッと見て逃げた。


背中の方から杏梨ちゃんの「葉月！」と呼ぶ声がしたけど、振り向きもしないで社食を出た。


早足で歩いてトイレの個室に駆け込んだ。
胸に抱えてたミニバッグの中身を食べるどころではなくなり、そのままぎゅっと抱き締める。


課長に気持ちがバレたかもしれない。
不用意な紺野君の言葉を自分のことだと受け止めてたらどうしようか。