好きな人が現れても……

私の言葉に紺野君が、椅子から立ち上がった。
ガタンと大きな音がしたから、周りの人達が驚いて振り返る。

チラチラと周囲を見回した。
紺野君もそれに気付いて、ガタン…と椅子に座り直した。

呆れたように口を開け、その口から「バカか！？」と一言飛び出す。


「そんなこと止せって」


全力で否定してくる。
なんでよ…と言いたくなって顔を見上げると、大きな溜息を吐き出された。


「お前、いいように扱われてるだけじゃん。奥さんが死んでるからって、そいつの家に行って料理を教える必要なんてねえだろ」


深入りし過ぎだと言われた。
でも、私は課長を手伝いたい。


「あー分かった。横山はそいつに同情してるんだ。奥さんがいないから可哀想だって」


「そ、そんなことない！」


少しムキになって言い返した。
だけど、紺野君は冷めたような視線を向けてくる。

その視線に対抗するように見返した。
だけど、同情ではないとハッキリ言える確証なんて何処にもない。