好きな人が現れても……

「何でそんな子持ち野郎がいいんだよ。相手はいくら奥さんが死んでても心に隙間なんかないのに」


ランチの定食を食べ始めながら嫌味を言う。
入れる余地もないという言葉が、グサリと胸に刺さった。


「…そ…そうかもしれないね。……でも、別のことで役には立てそうだから」


「別のこと？」


ついうっかり口が滑った。
紺野君の言った言葉に抵抗するような気持ちがあったせいだ。


「何でもない。そういうこともあるかもってだけ」


誤魔化してみたが遅い。
紺野君は疑いの眼差しを向けて、嘘を吐くなと言いたげに睨んだ。


「明らさまな嘘は止せよ。話せないような疚しいことでもあるみたいに聞こえるぞ」


そうでなければ言ってみろ…と囁かれ、少し戸惑う。

課長に料理を教えるのは疚しいことではない。
ただ、家に伺うことは少しだけ迷いがある……。


「……子供さんの幼稚園行事に手を貸すことになったの。
親子で参加するクッキング教室で、彼が作れそうな料理をレクチャーして欲しいと頼まれて、明後日、お宅へ伺って教えることになってる……」