好きな人が現れても……

「課長、もしかしてギョーザが好きなんですか?」


「ああ。市販品じゃないものが食べたいなあって思う程に」


「プッ!」


ダメだ。可笑しすぎる。

吹き出してしまった私は、そのまま笑い声を上げた。

オフィスで笑うなんて多分初めて。
課長もそんな私を呆然と見つめ、何処か照れてるから余計に面白い。



「……横山さん」


笑いの止まらない私を見てた課長が声をかけ、私は目尻に浮かんだ涙を指で掬いながら、はい…と返事をした。


「悪いけど、明日か明後日でいいからウチに来てレクチャーしてくれないか。多分、指導してくれる人がいないと出来ないと思う」


「えっ……」


笑うのを急に止めて耳を疑う。

私が課長の家に行くの!?
キッチンに立って料理を教える!?


「駄目だろうか」


そんな。
ダメだなんてそんなこと……。


「な…」


ないです。
いいです、勿論!


頭の中では即答。
だけど、それが声に出せなかった。


直ぐに、いいのかな…と思ってしまった。
亡くなった奥さんが立ったであろうキッチンに自分が立ってもいいのか…と迷った。


「流石に虫がいいか」