好きな人が現れても……

肝心な時には居ないんだから…と諦めて庶務課へ戻り、ふぅ…と息を吐いてメモ書きを始めた。


昨日のお願いを引き受けてからこっち、課長の作れそうな料理を思い浮かべてはメモ書きをしてる。

課長の包丁さばきがどの程度かは知らないけど、切るという工程が少ないものの方がいいだろう。

しかし、娘さんにしてみれば、きっとパパが手際良く包丁を使ってるところが見たい筈。
だって、愛由もそうだし、姉も包丁を握ってるお義兄さんに見惚れてるから。


(私も課長がエプロン付けてるところ見たいなー)


そんな不謹慎なことを思い浮かべては打ち消す。
今はこれ以上彼に近付けることはないんだから精一杯出来ることをやろう。

だけど、やっぱり切ない気持ちはゼロではない。
接点ナシよりいいってだけで、なんの進展も望めない。

それでも前よりかはマシだと思い直し、候補をいくつかに絞ってレシピを作った。



金曜日の朝、早目に出勤してきた課長に書いてたレシピを持って行った。

彼はしげしげ…とそれを眺め、「これ全部作れる?」と私に聞いた。