好きな人が現れても……

もう二度と課長のことを目で追えないし、声をかけられてもドキンとも出来ない。


「怖いとか思う位ならさっさと別の男に変われよ。告れもしない臆病な恋なんかするな」


同い年なのに大人みたいな言葉を言ってくる。

大人だね…と紺野君を褒め、だけど、自分はそれがどうしても出来ないんだ…と呟いた。


「私だってこんな苦しい恋はしたくないよ。
でも、だからって、その苦しい場所から逃げるように気持ちを切り替えるなんてムリなの。

バカみたいに彼のことを目で追っちゃう。何気ない言葉の一つでドキドキして、天にも昇れそうなくらいに嬉しいのは彼だけ。

他の人ではそんな気持ちにならない。彼だけが私の心を満たしてくれる」


たった一口飲んだフィズのせいだろうか、バカ正直に気持ちを話してしまい、後から恥ずかしくなってきた。



「ごめっ……今言ったこと、忘れて」


ゴクゴクとフィズを数口続けて飲み、プハッと息を吐く。
紺野君は自分の前に置かれた新しいビールのジョキを眺め、少し間を置いてから私を見つめ直した。



「横山」