好きな人が現れても……

「ほっとけるか。俺だけが話を聞いてもらうのなんて嫌だから話せよ」


クソ真面目な顔をしてる。
こういうどうでもいい正義感を振るうところがあったんだ…と思い出し、迷った挙句、話してみるか……と決めた。



「……実は、ずっと前からいいな…と思ってる人がいて」


「へぇー、横山にも好きな男がいたんだ」


好きとも言ってない。いいな…としか言ってないのにこれだ。
変なタイミングで茶々を入れてくるものだから、話す気が少し削がれてしまった。



「……で?」


こっちの気分を察するように聞き直してくる。やっぱり聞きたいのか…と思い、口を開いた。


「その相手というのが家庭持ちで…」


ガタン!と椅子から立ち上がった紺野君が、私を上から見下ろしてくる。
鋭い目付きは驚きと言うよりもショックを受けてるみたいで、何か勘違いをしているなと思った。


「……止めとけよ」


そう低い声で言うと座り直し、側を通りかかった店員にビールをもう一杯と注文する。

その目線が店員からこっちに戻り、ふぅー…と一つ息を吐いた。