「紺野君」


振り返ると同期の彼が歩いて来ようとしてる。
笑いかける顔が眩しく見え、微かに目元が緩んだ。


「なに険しそうな顔つきで歩いてんだよ」


自分の眉間を指差し、トントンと叩く。
私の眉間にシワが寄ってることを教え、何かあるのか?と尋ねてきた。



「……何も」


課長の奥さんのことなんて教えられない。
社内の上級職しか知らない話を安易に彼にできる訳もない。


「その割には浮かない表情だぞ。えらくぶすっとしてる」


こんな感じ…と唇を尖らせ、眉間にシワを寄せた。
自分の顔真似を廊下でする同期に呆れ、いいから放っといて…とムキになった。


「そういう訳にはいかねえよ」


向きを変えて立ち去ろうとする私の背中から前に立ち塞がり、横山には借りがあるから…と言いだす。


「借りぃ?」


何だそれは…と怪しい目を向けると、あのなぁ…と呟き、この間のことを言わせる気か…と呟かれた。


「もしかして、元カノの愚痴を聞かされた時のこと?」