そのまま話は課長の奥さんのことには戻らず、とにかく泣かずに元気を出しなさい…と励ましてくる。

初めて私の泣く顔を見たから柄にもなく驚いたじゃない…と振り返り、でも、葉月の人間らしい顔が見れて良かった…と笑って言った。



「すみません。心配をおかけして……」


店を出る頃には涙も枯れ果て、じゃあね…と手を振って去る相川さんの背中を見ても寂しいと思わずに済んだ。

私の気持ちを切り替えてくれたのだ…と思うと、オフィス内では怖い人だと思われてる彼女の人柄が惜しく感じる。


今みたいに人の気持ちを考慮しながら行動できる人なのに。
もっと良い噂が立てばいいのにーーー。


そう思いながら歩き始めて、課長が社内では噂をしないで欲しいと願った理由が分かった。


半分は相川さんの言う通り、奥さんの死を認めたくなかったのだろう。

だけど残りの半分は、奥さんが辛い死に方をしたんだと、周りの人に語り継がれていくのが嫌だったのだ。


噂なら諺の通り、七十五日位で終わるかもしれない。
でも、事実は永遠に変わらず続いていくーー。