昼間に聞いた話は私にとっては失恋に近いような気持ちで、でも、やはりそうではないと思いたい気持ちも強くて、「違いますよね」と呟く。


イラっとした感じで相川さんの指先がトントン…とテーブルを小突いた。
勿体ぶったところで言わされそうだと観念し、野村課長の奥さんのことを知ってるんですか?と聞いた。


「……ああ、お亡くなりになってるってこと?
それなら上級職に就いてる者はほぼ全員知ってるわよ」


密葬という形で葬儀を行ったんだそうだ。
社内でも噂を広めないようにして欲しいと、課長自らが参列者に頼んだ。


「惨めな思いをしたくなかったのかな。オフィスで皆にお悔やみの言葉を言われると嫌でも実感しちゃうもんね。
自分の妻はこの世から消えて無くなったんだ……って」


相川さんの言葉は今の私には酷くこたえた。
やっと止まりそうだった涙がまた溢れ返ってきて、彼女は困ったように、泣かないで…と言いながらテーブルの向かい側から顔を覗かす。


グスングスンと鼻水を吸う音を繰り返してる私を見つめて、小さくふぅ…と息を漏らした。