それでいつも社食の隅っこで食べてたのか。
なんとなく理由は分かったけど、奥さんが亡くなってるとは知らなかった。



「あの…奥様、いつ亡くなられたんですか?…ご、ご病気で?」


聞いちゃまずいことだったかもしれない。
胸の傷を抉るような質問をした後で後悔した。

課長は少し黙って、目線を前に向け直した。


「亡くなったのは三年ほど前。丁度横山さん達が入社してくる前だったかな」


遠い眼差しのままで聞いた話は辛かった。
課長の奥さんは、妊娠中に乳ガンであることが発覚したそうなのだ。


ドクターは直ぐに堕胎を勧めた。
出産はおろか、妊娠だって危険だと宣告してきた。


「妊娠中はホルモンの分泌も多い。それがガン細胞を刺激して活性化させるだけだと脅された」


妊娠を取り止めて抗ガン剤による治療を始めた方がいい。
このまま妊娠を継続させれば、寿命は確実に縮まる。


そう言われたのに、奥さんは聞かなかった。
自分のお腹に宿った命を守らずにいて、自分が生き延びても詰まらないと言い張った。