呟くと水筒を傾けて飲み込む。
飲んでるのはお茶なのに、課長が涙を飲んでるようにしか見えなかった。


水筒を口元から離すと課長は目線を前に向ける。
私は自分の時が止まったように、彼のことばかりを見ていた。


「いないのをいいことにして妻以外の者に甘える訳にもいかないし、最近は逆に甘えてくる存在の為にもしっかりしないといけないな…と思うようにもなって」


「それ……お子さんのことですか?」


部長とのやり取りが思い出されて尋ねると、振り向いた課長が真顔のまま、うん…と小さく頷く。


「今、四歳なんだ。今年の四月から幼稚園の年中組に通ってる」


「…あっ、それでお弁当を?」


「うん、でもこれは俺が作ってる訳じゃないんだけど」


「えっ、じゃあ誰が」


そう聞き返して、もしかして恋人でもいるのかと思った。
言わなければ良かった…と後悔してると、課長は実は…と言いだした。


「作ってるのは俺の母親で、孫の分を作るついでにと、俺の分まで詰めてくれてるのは有難いんだけど、おかずも子供向けのままで入れるものだから恥ずかしくてね」