「俺、横山さんがあんなに感情的になってるのを初めて見て驚いたよ。いつもクールなのに、なんか迫力があってギョッとした」


笑う顔を見て、自分は一体何を言ったのだろうと気になりだした。
課長に聞いてもいいのか迷ってると、笑うのを止めた彼が、はぁー…と大きな息を吐くのが聞こえた。


「横山さんの言葉はイタかった。家庭で奥さんに思いきり甘えればいいじゃないですか、と啖呵をきられて」


「わ、私、そんなこと言いましたか!?」


なんてバカことを言ったんだ。
奥さんへの不満を口にしたなんて。


「す、すみません!」


大反省をして頭を下げた。
もはや食事をする気にもならず、お弁当箱のフタを閉じようと手を伸ばしかけた。


「いいよ。イタいと言っても一瞬だけだから。実際に甘えられればいいんだけど、なかなかそうにもいかなくてね……」


語尾の弱まる課長を見て、フタに伸ばしかけた手を止める。
どういう意味なのだろうかと思い、あの…?と疑問形で問いかけた。



「……妻はもう亡くなっていないんだ。だから、甘えようにも難しい」