課長はどうぞと言って、少し左側に避けてくれる。
恐れ入ります…と頭を下げ、なるべくお淑やかにベンチに腰掛けた。


眼前にはオフィス街のビルが立ち並んでる。
遠くに見える高層ビル群を見つめながら、いい眺めですね…と声を漏らした。



「……そうだな」


課長は既に食事を始めてるようで、振り向くと唇がモグモグと動いてる。

目線を下げるとランチケースの中身は彩りも綺麗なだけではなく、何処か可愛らしさも漂ってた。

ウインナーがタコの形に切られてたり、ゆで卵は花形に切り込まれている。


「可愛いお弁当ですね」


つい言ってしまい、慌てて口を手で覆った。
課長は見られたか…と笑い、なるべく内緒で頼むと言った。



「はい…」


返事をしたものの誰かに話したい気がしてくる。
毎日こんな可愛らしい弁当を食べてたなんて、噂は本当だったんだ…と感心した。


私が自分のランチケースのフタを開けると、課長はそれを見て「美味そうだなぁ」と声に出した。
照れながら「そうですか？」と喜び、今朝も頑張って作った甲斐があった…と思った。