「今日のところは返事を保留にされてたよ。そのまま三人で食事に行くと言うから見送った。それから、駅に向かう途中で君と紺野に出会った」


一連の出来事が思い浮かび、カッと顔が熱くなる。
その場の勢いでこの部屋に来たけど、考えてみたら二人きりだ。


……でも、何を怖気付く必要がある。
私は課長のことを知る為に此処に来たのだから、しっかりと耳を傾けて聞かないと。

これから語れるだろう、課長の気持ちを知らなくてはーーー


「さっき紺野に迫られた時は迷った。
本当に俺でいいのかどうか。君みたいな若い女子には、紺野みたいな男の方がいいんじゃないのかって。

だけど、これはもう随分と前から思ってた感情だけど、そう思うと何故か悔しさを感じて堪らなくて、また一人にされるのかと思ったら、何だか我慢がしきれなくなった。

君を譲るくらいなら紺野に殴られた方がマシかなって思えて、その覚悟を決めて、ああ言った」



『……譲れない』


彼の背中で聞いた言葉が耳に蘇り、課長…と小さく呼んだ。


課長は椅子から立ち上がると私の足元に座り、あの夜、私が彼の手を包んだように両手を広げて、私の手を包み込んだ。