「プロポーズを断りたいから偽の恋人役をやってくれと言われた。その場に居て口裏を合わせるだけでいいからって。

……でも、相手がマズかった。俺がよく知る取引先の社長で、直ぐに嘘だとバレてしまったよ」


販促部にいた頃、懇意にしてた人だったらしい。
亡くなった奥さんの葬儀にも参列してくれて、懐の広いあったかい人なんだと教えてくれた。


「断るなんてどうして……」


そう呟いたところで思い出した。
相川さんが言ってたあの意味深なセリフを。


『……どんなに好きになっても伝えられない思いってあるわよね……』



……あれはやっぱり、好きな人がいるけど言えないって意味だったのか。

多分プロポーズをしてくれた人がその相手で、一人では断り難いと判断したから嘘ついてまで誤魔化そうとした。


だけど、奇しくも課長のよく知る人で、その計画はムダになった。


だったら、相川さんはその後でどうしたの……？



「課長、相川さんは？」


心配になって目を向けると、彼はうん…と頷く。
肯定的な意味なのかどうか分からず、早く教えて下さい！と迫った。