「そ…そうですね」


声が震えてしまった。
だけど、課長は気にしてない様子でグラスの中身を飲み干した。



「…さっきの件だけど」


いきなり本題に入ろうとした彼に慌てる。
そうだった…と思い出し、両手を握ったままで身を乗り出した。

課長はそれを見て逆に背中を伸ばし、小さな咳払いをしてから話しだした。


「今日の昼休みに相川さんに呼ばれたんだ。頼み事があるから是非とも引き受けて欲しいって」


時間と場所だけを指定され、終業と共に席を立った。
自分と会うことは内緒に…と言われてたから「野暮用」と言ったらしい。


「待ち合わせの場所に行ったら娘さんもいて驚いたんだ。オフィスでは子持ちだと公言しない人だったから」


その現場を見たのかと聞かれ、コクッ…と頷きを返した。


「そうか、ヤバイな。君には見つからないようにと言われてたのに」


それでさっきの叱られる？
もしかすると、私が勘違いしないようにと配慮してくれてたの？


「それで、あの…頼み事って何だったんですか？」


先走って聞こうとする私に笑みを見せ、課長は続きを話した。