好きな人が現れても……

「立会い人は彼女の母親に頼んだ。千恵の荷物も一緒に纏めてくれるようお願いして。……俺だとグズグズしそうだからさ。変に感傷に浸って先に進まない気がして…」


説明をしながらキッチンへ行き、何もないからミネラルウォーターでいいかと問われた。
何でもいいです…と答えながらソファの端っこに腰掛けた。


後ろのキッチンでは課長がグラスを扱い、その中にミネラルウォーターが注がれてる。
目の前にあった物がないことで、急に部屋の中が寂しくなったように思えた。



「…はい」


コトン…と置かれたグラスを見つめ、ゴクン…と唾を飲み込む。


やっぱり真央ちゃんが居てくれないと落ち着かない。
今からでもいいから、彼女を迎えに行った方がいいのではないか。


どうしよう…と窺うように目を向けると、向かい側の椅子に座ってる課長は足を組み、右手に持ったグラスの中身を飲み込んでる。

特に緊張してる様子もなく、落ち着かないのは自分だけかと思った。



「……暑かったな」


グラスを口から離した課長がそう言って前を向く。
ドキン!と心臓が飛び出そうになるのを我慢して、努めてクールを装った。