好きな人が現れても……

二人の間に立ち尽くしたままで、身動き一つ取れずにいた。


こっちに来ようとしてる課長は一人だった。
さっき一緒だった相川さん親子の姿はない。

何がどうなってるのかますます疑問で、それをどうしてなのか聞きたくなる。

だけど、私が彼に話しかけたら後ろにいる彼はどうするだろう。私達が話しだしたら絶対に気づかれてしまう。


狼狽えて辺りを見回した。
逃げ隠れもできない場所で、出来たことは一つだけだ。


くるっと九十度角度を変えて歩道の脇に避ける。
課長が通り過ぎるまで背中を向けていよう。

彼がどうか私に気づかず、この場を過ぎて行くことを願うのみだ。



課長の靴音なら聞き分けられた。
だって、その判断が付くくらい、すっと彼のことを見てきたから。


コツコツ…と歩き去る足音にホッとした。
でも、その瞬間にドキッと胸が弾んだ。


ポン!

肩に手が置かれて心臓が飛び出しそうなくらいに驚いた。
ぎゅっと胸の前で手を握りしめてると……



「やっぱり横山さんか」


目尻の下がった人は横から顔を確認し、ふわりと優しく笑いかけてきた。