好きな人が現れても……

金曜日なのにね…と笑い、じゃあね…と目線を下げて歩きだした。


紺野君に今のボロボロな自分を見せたくない。
だから、必死でその場を早く離れようとした。



「待てよ!」


後ろから二の腕を掴まれ、足止めされる。
振り向いたらダメだ言い聞かせ、前を向いたまま離して…と呟いた。


「何かあったんだろ。でないとそんな顔して外から入って来ないよな」


そんな顔とはどんな顔だ。
腑抜けてる様な顔つきでもしてたのか。


「話せよ。俺たち同期だろ」


同期だから話したくないのに。
彼をフった自分が彼に頼るなんてしたくない。


「別に何もないって言ったでしょ。いいから離して。仕事に戻るから」


する気はないのにそう言い放った。
このまま更衣室で、ただぼんやりと考えてたいだけだ。


「離すか。今離したら俺が後悔しそうだから離さねえ」


ぎゅっと力を込める。
二の腕に軽い痛みが走り、思わず彼のことを振り返った。


紺野君は真剣な目で私を見下ろしてた。
その瞳を見たら逸らせずに、じっと睨み上げる様な態勢になった。