ボロボロと泣き崩れながら、それでも横山の手は俺の両手をぎゅっと包んだままだった。

その手の上に彼女の涙がポタポタと落ちていき、その雫が手の甲へと伝っていった。



「課長…」


しゃくりながら横山葉月は俺を見上げた。
悔しさを押し殺した表情でぎゅっと唇を噛んだ。


その唇が薄く開き、震えながら俺の目を見て願った………。


「歩き出して、課長。…未来は、誰の為にあるんですか?」



千恵と同じ言葉を言われ、ただ呆然と彼女を見つめた。
俺のことを見てた横山は震える唇を閉じて、俺の頬に手を触れた。


「私を選んでとは言いません。でも、もう一度恋はして下さい…」


切なそうな声をかけ、優しく唇を押し当てた。

離れるとハッとしたような顔をして、慌てて立ち上がって出て行った。


バタバタと廊下を走り抜ける足音がして、こっちも我に戻って追いかけたがーー


目の前でバタンとドアが閉まり、俺はまた一人取り残された。

項垂れたまま立ち尽くす俺の耳に彼女の言葉だけが残っていた。



『歩き出して、課長。…未来は、誰の為にあるんですか?』