「それでも生きてくれてたら良かったのに…」


呟くとピアノ方へと目を向ける。
その姿を見つめ、胸が張り裂けそうな程痛んだ。


「課長にはこれからも奥さんだけがいればいいの…ですか?」


自分に問うつもりの言葉が口をついて出て、私は思わず「ですか?」と付けた。
課長はこっちを振り返り、うんともすんとも言わずに私のことを見つめてた。


唇を開きかけて止める。
さっきの行動と同じに思えて、さっと立ち上がって側に行った。


「はっきり言ってください。私がちゃんと課長を諦められるように」


何度も言われても諦めきれなかったけど、課長が言わずに飲み込もうとしてる言葉を聞いたら諦めがつくかもしれない。

それは絶対に辛いことだけど、課長の本心が聞けるならいい。


真剣な表情をする私のことを見上げてる彼は、根負けしたように唇を開いた。


「俺みたいな寡をいくら好きになっても無駄だよ。俺はもう二度と恋なんてしたくないんだ。
千恵のことで懲りた。誰かを好きになって、その人がまた先に亡くなったら…と思うと怖い。