それならやはり課長ではなく、他の人を好きにならなくては駄目だ。

道ならない恋なんて止めて、きちんと未来のある人を好きになるのがいい。


……頭ではそう思う。
だけど、心はどんどん沈んで暗くなる。

喜怒哀楽が乏しいだけてはなく、私は頭の切り替えも遅いらしい。


迷わなくてもいいことを迷ったまま週末が明けた。
ラッシュを見越して早目の電車に乗って出社したら、私よりも先に課長が来ていた。


ドキン…と胸が弾み、声を震わせながら挨拶をした。


「おはようございます。……課長」


書類に目を通してた彼は顔を上げて、ふわっと優しい笑みを見せてくれる。


「おはよう、横山さん。早いな」


名前を呼ばれるだけで胸が苦しいのに。
これだけで、こんなに幸せな気持ちになるのに何故。


思うだけならいいのではないか。
告らずに思うだけなら許されるのではないか。


自分に甘いと言われてもいいからもう少しだけ好きでいたい。

名前を呼ばれても、ときめかなくなるまで想いたい。



ズルズルと良くない気持ちを引きずったまま、月曜日の仕事は始まった。

そして、その日の午後、夏の親睦会の話題が降って湧いた。