「そんなに気落ちしなくてもいいよ。あの時は俺が頼んだのだし、真央も凄く喜んでたから」


ありがとう…と言われ、切なくなった。
自分が彼の奥さんなら絶対に自分の居場所を取られたくない筈だ。

なのに、彼はそんな気持ちも考えずに頼み、私も深く考えずに応じてしまった。

奥さんが亡くなったことをいいことに、私達は軽率な行動をしてたのかもしれない。


「あの時、持ってきてくれた南蛮漬けは美味かったな。横山さんの料理を食べれる男は幸せだよ」


無自覚な課長の言葉に顔を見た。
アルコールのせいか、少しだけ頬が赤い。


「君の隣に立てる男が羨ましい。美味い料理ができると男は手放したくなくなるから」


「課長は?」


「え?」


「課長の奥さんはお料理上手でしたか?」


いつまでも彼女に縛られてるのはそのせい?
それでいつまでも忘れられずにいるの?


「…千恵はそんなに上手くなかったよ。お嬢様育ちでピアノの講師もしてたから指に怪我なんかもできなかったしね」


手の込んだものは苦手だったな…と笑いだし、その後でほっと息を吐き出した。