好きな人が現れても……

深く頭を下げると、視界の隅でぎゅっと手を握りしめるのが見えた。
胸を掴まれるようで、ぐっと息を飲み込んだ。


横山は直ぐに返事もせず黙り込んでた。

それを感じながら、余程許せないと思ってるのだと察した。



「………ごめんとか、すまないじゃないですよ。今後は絶対にしないで下さい」


キッパリとそう言い切ると、怒った口調で続きを言った。


「私は亡くなった奥さんじゃありませんから」


言い渡したら気が晴れたように、小さく息を吐き出した。
それから気も抜けたらしく、脱力ぎみにソファに体を預けた。


「……今朝聞いたら課長は何もないと言いましたけど、多分きっと何かがあったんですよね?
でないと、あんなことする訳ないし、ぼんやりと仕事もしないと思う。

ムリにとは言いませんけど…でも、話して楽になるなら聞かせて下さい。

私みたいな人間でも、課長の愚痴を聞くくらいはできます。答えが要らないようなことなら声に出すだけでも違うと思うんです」


力強い声で、お願いします…と囁く。