好きな人が現れても……

その仕草を見ながら、葉っぱの上も拭かなきゃダメよ…と言っていた千恵を思い出した。


「横山さん何飲む？コーヒーでいい？」


気分を変えようと冷蔵庫を開け、実家から貰ったアイスコーヒーのボトルを見せた。

彼女は「お構いなく」と言ったが、入れて持って行った。

ソファの端に遠慮がちに腰掛ける横山の隣で、真央がゴロンと寝転ぶ。
了解も得ないうちから膝枕をしてもらい、俺はその大胆さに呆れた。


「真央、いい加減に甘えるな」


少し頭にきてそう言うと、真央はいいじゃん、と相手にもしない。
横山もいいですから…と笑い、結局こっちが折れる形となってしまった。


すまない…と謝る俺を見て、いいえ…と俯いて目を伏せる。
クッキング教室のことだけを聞きにきたのではないのだな…と、その瞬間に感じ取った。


カラン…と氷の揺れる音と真央のお喋り以外は音もなく、少し黙ったまま二人の会話に聞き入った。
遠目に映る新聞紙の束の上に、あのパステルブルーの封筒が見えていた。



「…あら、真央ちゃん？寝ちゃったの？」