好きな人が現れても……

部屋の鍵を開けても横山は遠慮して入ろうとはしなかった。

痺れを切らした真央に導かれ、仕方なさそうに足を踏み入れたリビングの前で、彼女は呆然と立ち尽くした。


「…あっ、ちょっと待って」


ヤバい。そう言えば、今朝は部屋の中を片付けもしないで出たのだ。


考えてみれば先週は何処も掃除をしてなかった。
土曜日からこっちは頭がぼうっとして虚ろだったし…とそれは言い訳にもならないか。


バタバタと走り回り、ソファの上に脱ぎ捨てていた衣類を洗濯機に放り込み、読みっぱなしの新聞や雑誌は折りたたんで積み重ねる。

真央は楽しそうに「ひろー、ガンバレー!」と声援を送ってくるし、少しは手伝え…と言いたくなってくる。


取りあえず何とか座れる場所を確保して、改めて中へどうぞ…と促した。


「お邪魔します」


苦笑しつつリビングへ入った横山の視線は、直ぐに右側の壁際に置かれたピアノの方へと注がれた。

掃除はしていなかったが、毎日惰性で水やりだけは続けてるゴムの木に近寄り、繁々と下から上へと見上げた。


「大きいですね」


そう言うと、葉の上を指で撫でた。