好きな人が現れても……

「どうして……此処に?」


あんなことをした俺に会いにきたのか?
昼間と同じ様なことをされるんじゃないかと、心配したりはしなかったのか。


怒ったり呆れてるんじゃないのか。
そもそも俺のことなんて、二度と視界にも入れたくない程嫌いになったろうに……。


あれこれと否定する言葉が頭の中を駆け巡る。
だが、そのどれもが口をついて出てこない。


横山は小首を傾げて微笑んだ。
手を握ったまま振り回す真央に視線を一度だけ下ろし、すぐに俺に向け直した。


「親子クッキング教室のことが気になって、上手く出来たのか訊ねに来たんです」


そう言うと、真央にどうだった?と聞いた。
無邪気な娘は「大成功だったよ!」と両腕で大きな丸を作った。


「そう。良かった」


ふわっと優しい顔で笑った。
真央も嬉しく思ったのか、横山に抱っこして…と強請りだす。


「真央…!」


止めたが言うことを聞くような娘ではない。
足元から真央に飛び付かれた横山は、ヨロッとなりながらも、その体をキャッチした。


キャッキャッ…と笑う真央に合わせて笑い、しっかりと体を抱き直した。