好きな人が現れても……

振り向いた女性は驚いた様に目を向け、自分の側へ駆け寄る子供の方に向かい合わせた。


その様子を見ながらドクンドクン…と鈍く胸が鳴る。

なぜ彼女が此処に居るのか、それが分からずに戸惑った……。



「お帰りなさい」


家族でもないのにそう言って真央を抱き包む。
真央は嬉しそうに擦り寄り、「ただいまー!」と元気な声を発した。


側から見れば仲睦まじい親子の再会シーンのようだ。

けれど、彼女は俺達の家族ではない。
だから、それをいつまでも放置しておく訳には……


「ひろー、早くー!ハヅキちゃんだよー!」


膝を伸ばした彼女の手を握りしめ、反対の手は振り返って俺を招く。
真っ直ぐに肘を伸ばし、手首から先を上下させた。

早く早く…と呼んでるのは、本当に娘の真央なのだろうか。



(…俺、まだ虚ろってるんじゃないよな?)


何処か釈然としない面持ちで近寄れば、横山葉月は無言で頭を下げた。



「こんばんは。課長」


頭を上げると挨拶する。
声が幾分固く聞こえる。
昼間の醜態が思い出され、スーッと背中に冷や汗をかいた。