持って行った書類も適当に読み流すし、判を付いて返してくるのが早過ぎる。
気づけば俯いて居眠りをしてるのではないかと思うくらいに微動だにしない。


気になって仕方なくて、課長の後を追った。
　
いつかのように早くもない歩調で、確実に上を目指して歩く。

まるで死に場所を求める人みたいで、屋上へ出るドアノブに触れた瞬間、まさか…と思い声をかけたのだ。


振り向いた課長は一瞬だけいつもと変わらず、ホッとした。


なのに、一晩だけなら…なんて、思ってもない言葉を言われ、驚きと言うよりもショックを受けた。

頬に触れられたことも重なり、体が硬直して動けなくなった。



『温かいな…』


あの言葉は誰に言ってたの？
綺麗だ…て声も、遠くから見てる人に言ってるみたいだった。



（どうして今？私は奥さんじゃないのに……）


そう思うと彼のことを直視したくなかった。
なのに、顎を掴まれてのあのキス。


まるで逃さないように迫ってきて、何度も何度も口付けられた。