必死で階段を駆け下りながら涙を拭う。

誰と出会うか分からないから俯いたままで足を進めた。

バタバタと勢いよく下りきり『3』の数字を踊り場で見つけた時に、これから仕事があるのだと思い出し、とにかくメイクを直そう…とトイレの個室へと駆け込んだ。


便座のフタをしたまま、ヘナヘナ…とその上にしゃがみ込む。
呼吸は荒くて顔も体も火照ってるのに、気持ちだけが妙に冷めきってた。


課長の唇が触れた部分に指を当て、そのままキュッと指先を握るーーー。




(……課長と…キスした……)


いきなり唇が触れてきた時は驚いた。
えっ…と思う瞬間には自分の口を閉じていた。


それを無理矢理こじ開けるように舌が入ってきて、絡め取られるように吸い付く。


どうしていきなり?
ホントに課長なの?


そんな気持ちが起こって逃げ出したくなった。

だけど、課長はしつこくて、何度も逃げようとする舌の先を追いかけてくる。

まるで舌で私を犯すように口腔内を舐め回した。


気が遠くなりそうになって、こんなのに流されてはダメだ…と思った。