「何かありましたか?」


頭の上から降ってくる声に虚ろな目を向けた。
耳にストレートヘアを引っ掛けた横山が、心配そうな眼差しで見つめてる。



「……いや、何も…」


目を逸らせて答えると、デスクの前に立つ彼女は怪訝そうに首を捻った。
けれど、何も言わずに俺に確認書類を手渡した。


ボンヤリと手渡された書類に目を通す。
字面は見えているが、頭の中は思考してない。

取り敢えず誤字や脱字はないな…と判断し、書類の束をデスクに放った。



(……はぁ…)


声を漏らさずに胸の中で息を吐く。
土曜日に散々泣いて眠った翌日から頭がぼぅっとして働かない。

今朝もベッドから蹴落とされたというのに、どこも痛いとは感じなかった。


まるで五感を何処かに置き忘れてきた様な感じだ。
痛みだけでなく全ての感覚が鈍い。


その証拠にいつの間にか昼休みになった。
食べたくもないが弁当箱と水筒を持ち、席を立つ。
母には悪いが、今日はこのまま食べずにいよう。


庶務課を出てエレベーターの前を通り過ぎて屋上へ向かう。



日差しを浴びたい。
浴びればもう少しシャキとするかもしれない。