千恵とよく似た声に一瞬胸がドキッとした。
もしかして、彼女がこの一連の出来事を見てたのだろかと疑ったがーー。


「今夜は真央の好きなお素麺にしようかと思ってるの。良かったらこちらに食べに来ない?」


千恵の母親からだ。
彼女本人である筈がないと思いつつ、伺います…と言って電話を切った。



「真央、ママの家に行くぞ」


助手席に乗せながらそう言うと、真央は「わーい!」と手を挙げる。
悲しいことに真央にとって母親の家は我が家ではない。


遺影も位牌も全部千恵の実家に置いている。
法事も全部そちらで行うのだから、ママの家はそっちだと必然的に思ってるのだ。


いつまで位牌や遺影を預けておくのか。
俺自身も自問することがあるが、これは千恵の両親から頼まれたことでもあるし、自分だけの気持ちを優先して、返して下さいとも言い難い。


しかし、いずれは自分で引き取らなければならない。
両親の亡き後、千恵を守るのは自分しかいない。


複雑な思いを抱えたままで実家へ向かう途中、花屋へ寄った。仏壇に供える花束を買い求め、車に乗り込む。