好きな人が現れても……

お礼を言うと振り返り、いえ…とクールな感じで答える。


「君も遅くなってしまったね」


大丈夫だろうか…と気になる。
けれど、横山は帰ってもやることがないからいいんです…と答えた。


「微力ながらお役に立てて良かったです」


本当に心からそう思っているように微笑み、俺はその笑顔に胸が弾んだ。


「それじゃお先に失礼します」


庶務課を出ようとする彼女はドアレバーを下げた。
その手元を見てたら、胸の奥から湧いてくる気持ちがあった。


「…横山さん、ちょっと」


一緒に外へ出てから歩き出すと、彼女は戸惑いながらも付いて来る。

その足音を聞きながら、やはり知らん顔は良くないと思い始めた。



エレベーターの前を抜け、階段を少しだけ下る。
フロアの間にある踊り場で足を止め、くるっと後ろを振り返った。


「……俺は、なるべく君を傷付けたくないから先に言っておく。

俺のことを助けようとか、役に立とうとか思わなくてもいいし、しなくてもいいから。

真央が祖父母に面倒を見られるのも、生まれてからこっち、ずっとのことだ。