好きな人が現れても……

廊下に出たものの行く先がある訳でもない。
取りあえず歩き出し、トイレに寄って手を洗った。


鏡に映る自分の顔が変だ。
朝からこんな感じの顔だったかな。


眉間に深い縦皺が寄ってる。
何だか思い悩んでる様な顔つきだ。


右手の人差し指で眉間の皺を押し広げた。
なくなった皺に満足してから庶務課へと戻った。




昼間の能率が上がらなかったせいか、その日は珍しく残務整理が残った。

真央の幼稚園話もあまり長く聞いてやれそうにないな…と思いつつ、少しでも早く終えようと焦っていた。



「課長…」


若い声に胸が弾み、数字を一つ打ち間違えた。
それをバックキーで消した後、入力途中の部分に指を置いて目を向けた。


「あの…お手伝いしましょうか」


目の前に居たのは横山葉月だ。
伺いを立てるその眼差しは、真っ直ぐと俺のことを見つめてる。

とくん…と胸が跳ね上がり、なんだ?と一瞬思った。


「…いや、大丈夫だよ。横山さんも仕事が済んだなら帰っていいから」


庶務課の女子は誰もいない。
今日も彼女は人の分も請け負って残ってたのか。