好きな人が現れても……

昼の間に何があったのだろう。
紺野と約束でもしてきたのだろうか。

そう思うと少しだけ気分がイラッとした。
同期の二人が何を約束しても構わないじゃないかと思い直し、そうだと自分で納得する。


横山に、好きでずっと見てた…と言われたからといって、俺がそれを間に受けてどうするつもりだ。


横山は若くて独身だが、俺は寡の子持ちなんだ。
折り合う接点など何もないのだから、あの言葉は聞かなかったことにしておけばいい。


そうしていたら、いずれ横山も諦める。
そのうち紺野が距離を縮めだして、彼女と上手くいってくれればいいのだ。


(そしたら二人の披露宴とかに俺が呼ばれたりもするのかな)


千恵と結婚した時も上司を披露宴には呼んだよな。
スピーチを任せて、喋ってもらった経験もあったのだがーー。



(……俺は喋らないぞ)


何故かそこだけは強く思ってしまった。
部下が嫁に行く姿を想像して、急に胸が悪くなった。


ガタン…と椅子の音を立てて立ち上がると、横山初め全員の視線が注がれる。



「あ…すまない」


俯きながら囁き、そそくさと部署を出た。