好きな人が現れても……

屋上のベンチで弁当を食べて戻ると、自分のデスクに着いたまま横山がモソモソとおにぎりを食べている。

社食には行かなかったのか…といつもなら声をかけるところだが、それも何だか気まずい。


ちらっと視線をこっちに走らせた横山の方も似た思いがあるらしく、目を伏せて食べ続けていた。
そこへ女子達が戻って来て、四ノ宮杏梨が横山に言った。


「あれー、葉月、今頃お昼?紺野君と外で食べなかったの?」


大きな声で話すものだから、横山は何処か慌てて「食べてないよ」と教えてる。



(そうか。紺野と一緒に居たのか…)


納得しながらやはり何かが引っ掛かった。
若い男女がオフィスの何処で何をしていたのか。

コソコソと話しかける四ノ宮に対し、真っ赤な顔で首を横に振る横山。
話した四ノ宮は燥ぐような口調で、「冗談よ」と笑った。


何を言ったのかは大体察しがついた。
多分下ネタじゃないだろうか…と勘繰りながら、時々横山の様子を窺う。


午前中は液晶画面ばかりに向いてた目が、そこだけではなくなってる。
固まってた顔の表情も午前に比べると幾らか解れてそうだ。